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鈴木実貴子ズ × 篠塚将行(それでも世界が続くなら)

Low-Fi Records特集 #3 SPECIAL TALK SESSION:鈴木実貴子ズ × 篠塚将行(それでも世界が続くなら)

全国のライブハウスシーンにおいて耳の肥えた人々から“本物”と賞される名古屋発2ピースバンド、鈴木実貴子ズ(通称:ミキコズ)。名古屋で鑪ら場(たたらば)というライブハウスも運営し、DIY精神とライブ至上主義に基づいた活動を展開してきた彼女たちがLow-Fi Recordsに移籍して初の両A面シングルをリリースした。同レーベルの代表代理兼アルバイトであり、ミキコズの才能と可能性を信じてやまない篠塚将行(それでも世界が続くなら)と、メンバー2人による特別対談第3弾にして堂々の完結編。

 

「“泣いている”フリの音楽って、めっちゃダサくないですか?」

●今回、Low-Fi Recordsに鈴木実貴子ズ(以下ミキコズ)が移籍してリリースすることになった経緯とは?

篠塚:元々、僕のバンド(※それでも世界が続くなら)がミキコズに呼んでもらって対バンした時に、色々と話を聞いていて。そこで“何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれよ”という話はしていたんです。そうしたら前作(『名前が悪い』2017年9月)のリリースやツアーが終わった後に連絡が来て、“CDを出したいんやけど、何とかならん?”みたいな感じで言われたんですよね。

鈴木:本当にそのまま言いました(笑)。

篠塚:こっちも“いいよ。やりたいね”と言ったんですけど、話をよく聞いてみたら既にレコ発も決まっていると言うんですよ。

鈴木:全部決まっている上で“CDを出したいんですけど、どうしたら良いですか?“と相談したんです。

篠塚:“全部決まっているんだ〜”とは思いましたね(笑)。

●それでも受け入れてくれたと。

鈴木:私たちに対して、しのさん(※篠塚)の心が本当に開けているんですよ。それを感じ取っていて。私がお願いしたら、しのさんはたぶん言うことを聞いてくれるだろうという確証もあったんです。

●それはなぜ?

鈴木:私たちがやっている鑪ら場(※たたらば/ライブバー)に来てもらった時に、私がしのさんにご飯を作って出したことに対してすごく恩を感じてくれていて。“あの恩は絶対に返す!”と言ってくれていたんです。

篠塚:一宿一飯の恩義があったからね。ライブハウスに行って、あんなにも暖かく迎え入れられたことってないなと思って。泊めてもらった上に、美味しいナス料理とご飯も出してもらったんですけど、その時の実貴子ちゃんがすごい笑顔で。歌っている曲は知っていたから、会う前はヤバい人なんだろうなと思っていたんですよ。

●ミキコズの曲を聴いた印象として、ヤバい人だと思っていたんですか?

篠塚:ミキコズの音楽を聴いた時、“きっとこのままの人なんだろうな”と思っていて。“きれい”も“汚い”も精査することなく、本当に思ったことだけを歌っている感じがしたんです。その表現がまた完璧じゃなくて、拙いんですよね。拙いからこそ突き刺さるというか。自分の好きな音楽だったし、美しい音楽だなと思いました。

●“美しい”と感じたんですね。

篠塚:ちょっとグロテスクだったり、ちょっと怖かったりするものの中にも、“美しさ”ってあるじゃないですか。ミキコズの音楽に、自分はそういうものを感じたんですよね。精査された技巧的な美しさじゃなくて、芸術の本質にあるような“人間本来の美しさ”というか。そのへんに生えている雑草を“きれいだな”って思うような、そういう狙っていない美しさが良いなと思ったんです。

●作られていないところが良かった。

篠塚:そもそも僕は音楽…時にロックやパンクに対して、虚像を求めていないんです。だから、音楽を聴いた時の印象どおりの人であって欲しくて。“好かれるために合わせてくれているんだろうな”って感じると、僕は寂しいと思っちゃうんですよ。だから実貴子ちゃんにも“とりあえず敬語を使うのをやめて欲しい”と言ったんですよね。

鈴木:言われたね。

篠塚:あんな歌を歌っている人が自分に対してずっと敬語で喋っていて、笑顔で“しのさん、よろしくお願いします”とか言っているのを見るのが僕は嫌だったんですよ。僕には歌っている時の感じでそのまま来て欲しくて。

●実際に実貴子さん自身も本心だけを歌っている意識はある?

鈴木:あります。だから、ちゃんと伝わっているんだなと思いました。

篠塚:自分としては“そんな音楽をやっている人がまだいたんだ”っていうところも嬉しかったんです。

鈴木:だって、そんな音楽は売れないからね。

篠塚:実際に売れないかどうかは何とも言えないけど、みんな“売れない”と思ってやらないんです。そのことに対して、僕は違和感があって。それって学校で“みんなに合わせないヤツはイジメられる”のと同じようなことなんですよね。“迎合しないと爪弾きにされてしまうから、合わせていこう”という風潮って、まるでそれを肯定しているようなものじゃないですか。ミキコズはそういう、世の中が暗に肯定している構図からは抜け出していると思うんですよ。

 

 

●みんなに合わせようとしていない。

高橋:実際、“売れるためにはこうしなきゃ”みたいな気持ちは全くなかったですからね。

鈴木:“そもそも自分にそんなことはできない”というのが、もう痛いほどにわかっているから。今までの人生の中で無理だったから、自分は今こうしているわけで。“そっち側”に寄せるということはもう完全にあきらめています。

篠塚:それが無理だったから俺は小学校1年生の時から、長い間イジメられていて。もちろん当時の自分にはそこを打破できないし、今の自分が同じ状況になってもたぶん打破できないんですよね。大きなものに刃向かえるような何かが自分にあるわけではないし、それができなかったから今の自分がいるわけで。だから音楽を通して、実貴子ちゃんの気持ちが少しわかった気がしたというか。

●それが最初の印象につながっているんですね。

篠塚:会ってから“こういう人なんだな”と気付くところもあったけど、“絶対にあの音楽どおりの人だろう”とは思っていましたね。最初に会った時、2人とも気が遣える人だなと思って。でもそこで“優しい人なんだな”とは思わなくて、“なんて現実は悲しいんだろう”と思っちゃったんです。

高橋:“頑張ってくれているんだな”みたいなことですよね?

篠塚:そうそう。こんなにカッコ良い音楽をやっている人がこんなふうに作り笑いしなきゃいけない現実世界が悲しいなと思って。

鈴木:そんなふうに思っていたんや…。なんか嬉しい、恥ずかしい、悲しい…やな(笑)。

●そういう気遣いや社交的な振る舞いは、ライブハウスで働いている中で身に付けた部分もあるのでは?

篠塚:そうでしょうね。でもそれが悲しいんですよ。常識として“(ルールから)はみ出すな”と要求されているわけじゃないですか。たくさんの人が当たり前のように、はみ出しているヤツらを糾弾して、ちょっとでも言葉遣いを間違ったら“それは言い方が違うんじゃないか?”と責めたりして。はみ出すことを一切許さないような風潮があって、それについて議論もされないまま“常識”としてまかりとおっている。

●インターネットやSNS上は、まさにそういう感じですよね。

篠塚:実際に話してみたら、そういう意味で言っていないということもわかるはずじゃないですか。たとえば実貴子ちゃんが“私は全然そう思わない”と言ったとしても、こちらは“今はそう思ったんだよね”という解釈もできるわけで。その人を信じていれば、行間を読むということもできるはずなんです。でも現実にはちょっと間違った言葉遣いをした瞬間に、“おまえは悪だ!”みたいなことをすごい剣幕で言ってくる人もいるじゃないですか。

鈴木:それぞれに“物差し”があることを理解しないというのがすごいですよね。1つの物差しに統一させることによって、善と悪を生もうとしているというか。

高橋:そんなわけないのにね。

鈴木:でもやっぱり生きていると、そういう物差しが自然と身に付くんですよ。

●否が応でもというか。

篠塚:俺たちは器用なわけでもないし、そういうことが知りたかったわけでもないけど、こんなにも出会った人みんながそれを持っていると自然と身に付いてしまうというか。でも俺たちが芸術とか音楽に求めていたものって、そんなものじゃないんですよね。自分が“良い”と思った感覚のままでいたいのに、音楽に関してもはみ出すことが許されないっていう。

鈴木:だから物差しに合った音楽をやったら、絶対に売れるもんね。

篠塚:まぁ、絶対に売れるかどうかはわからないけどね(笑)。今の言葉も実貴子ちゃんはそうじゃないことを知っていて、言っているんだろうなと思うんですよ。でも彼女を知らない人は、その言葉だけを拾って“絶対って言ったじゃないか?”と言ってきたりするわけで。

●たとえば今回のM-2「音楽やめたい」も、そのまま言葉どおりの意味ではないわけですよね。

篠塚:このタイトルを見て“やめたいなら、やめろ”って言う人もいると思うんですよ。でもそういう意味ではないんですよね。

●M-1「平成が終わる」の“要領よく生きることが否定されて 不器用に生きることだって笑われるでしょう”というところが顕著だと思いますが、ミキコズの歌はどれも自分の中での葛藤をそのまま歌っているというか。

鈴木:そうそう。ウチらの曲には全部“ゴール”や“答え”がないんですよね。答えが出ないから、曲ができることってない?

篠塚:あるある。

鈴木:そういう感覚だから、曲の中で答えが出せないんですよ。だって、今でもずっと悩んでいるから。

篠塚:答えが出たから曲を書くわけじゃない。

鈴木:答えが出たら、私の場合は曲にならないから。もしそうなら、その答えをもっと日常生活に活かすよね(笑)。

高橋:“わかっているなら、やっているよ!”っていう(笑)。

●どちらも音楽に答えを求めているわけではないので、それゆえに苦悩も終わらないのかなと。

鈴木:うん、終わらない。…って、自分がかわいそうになってきたな(笑)。

篠塚:たぶん一生苦しいと思うんですよ。おじいちゃんになっても、おばあちゃんになっても、お互い苦しい気持ちが解消されることはないんじゃないかなって思う。でも解消されたいと思って、手を伸ばしているのは本当なんですよね。

鈴木:そうなんだよね。

●逆にその苦しみから解消されたかったら、それこそ“音楽をやめる”という方法が手っ取り早いと思うんです。でも両者とも音楽を仕事にしているわけで…。

鈴木:“放棄しません”って言っているようなものですよね。“はい、私は苦しみます!”っていう(笑)。

高橋:確かにそうやな(笑)。

篠塚:“放棄できない”ところもあると思うんですよね。この顔で生まれてきて、ここまで生きてきた経緯があって、こういう人間になって、今みたいな生き方をしてしまっているわけで。実貴子ちゃんも今までに生きてきて、色々と大変なことがあったはずなんです。自分が失望することや上手く生きられないことがもう当然のように前提としてあった上で、今まで生きてきた中で感じたことをそのまま歌っている。そういう意味でミキコズの音楽って、すごく誠実だと思うんですよ。

●生きにくさを前提として認めた上で、自分の感覚を誠実に歌っている。

篠塚:「音楽やめたい」のミュージックビデオを発表した時の“認めろ”っていう実貴子ちゃんのコメントに、僕はすごく感動したんですよね。“迎合しに行く気はない”というか、そもそも“認められない”という想いが前提にあって、言った言葉だと思うんです。

鈴木:でも認めてもらえない気持ちもわかるんです。物差しは人それぞれで違うから。“たぶん認めてもらえないんだろうな”というモヤモヤした気持ちはあるし、“売れないんだろうな”とも思うけど、それでも“売りたい”という気持ちがある。それが“認めろ”という言葉になったというか。

篠塚:最初から“認められない”と感じていたわけではないと思うんですよ。やってみたら不当な扱いを受けたから、“いや、その扱いはおかしいでしょ?”っていう感じで抗っているというか。僕はミキコズの音楽を聴いた時に、実貴子ちゃんが“泣いている”ように感じたんですよね。

●泣いている?

篠塚:痛かったら“痛い”と泣いて然るべきだと思うんですよ。でも現代の人って“痛くても泣かないように耐えている”人が多いし、その不自然な様子を強要するような怖さもあって。実際に実貴子ちゃんと会った時に“我慢しているな”とも感じたんですけど、僕には“泣いている”ように見えたんです。

鈴木:でも“泣いている”フリの音楽って、めっちゃダサくないですか?

篠塚:それが一番、嫌だ。

鈴木:私も一番、嫌だ。

高橋:今カチッとハマりましたね(笑)。

●ですね(笑)。

篠塚:しかも“フリ”のほうが響いちゃたりもするんですよ。そこで“やっぱり嘘をついたほうが人には伝わるんだ”という現実を目の当たりにするわけじゃないですか。実貴子ちゃんの“私たちなんて売れないよ”という言葉は、そういうところから来ていると思うんです。嘘をついている人の歌のほうがみんなに響いていて、本当に気持ちを込めて歌っている人のほうは届かなかったりする。

鈴木:“茶番”なんだよね。

篠塚:本当に“茶番”で。やっぱり世の中って悲しいし、ズル賢いヤツが勝ってしまうし、嘘泣きがみんなに信じられて、本当に泣くのを耐えている人の言葉はわかりにくくて伝わらないという現実があるかもしれない。でもそれに気付ける人もいるから。こうやって誤解されながらも歌い続ける音楽こそ、僕はあって欲しいんですよね。こういう音楽があることで、どこかで泣くのを我慢している人に気付いてもらえるかもしれないじゃないですか。僕はミキコズに出会った時から、そういう光景を見たいと思っているんです。

Interview:IMAI

 

 

 

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